JAPAN MADE
ものづくり産業の危機に触れる
「やっぱり、わたし転職する」久々に会う飲み会の席で、友人が私(後のETALE創業者)にそう言ったのは、2022年の年末のことでした。その友人は高校生の頃、ある伝統工芸品に心奪われたのがきっかけで、大学卒業後は工房に弟子入りという形で携わっていました。そして、会うたびに伝統技術の色々な知識を私に教えてくれ、デザインに興味がある私をいつも魅了してくれた人でもあります。
いつも楽しそうに製作の様子や、少しずつ技術がついてきたことなどを話して聞かせてくれていたばかりに、冒頭の一言には唖然としたのを覚えています。詳しく話を聞くと、今の工房では若い後継者候補として将来も期待され、毎日作業に打ち込む時間はとても楽しくやりがいも十分だそうです。ただ、長く連れ添った彼女との間に結婚の話が持ち上がったこともあり、幸せな家庭も築きたいと考えていた彼は、今の仕事だけで今後の生計を立てていくことは難しいと感じていました。ここ数ヶ月、日中は作業に打ち込み、夜は他でアルバイトという、寝る間を惜しんだ生活をすることで貯金を稼いでいたそうです。「家庭のことを考えると、諦めて就職するのがけじめかなと思ってさ」と、少し潤んだ瞳で呟く彼の言葉は、その後の私の心に何ヶ月も重くのしかかっていました。
あれだけ楽しそうに好きなことにのめり込み、ひたむきに努力している彼が報われないのはなぜなのか。彼のつくる作品やその背景を知っていた私は、仕事も家庭も諦めてほしくない、どうにか力になれないかという気持ちで、伝統工芸品について調べるようになります。
すると、次第にたくさんのことが見えてきました。なかでも一番の衝撃は、一昔前に世界に誇るブランド力を持っていた「MADE IN JAPAN」という日本のものづくり産業、伝統技術衰退の危機でした。
伝統技術が抱える課題
これまでの時代では、手作業で丁寧にひとつひとつものをつくることが、高品質なものを生み出す唯一の方法でした。その技術を習得するためには何年もの下積みが必要で、その途方もない努力があってはじめて、多くの人に感動を届けることができました。
特に日本は、コツコツとひたむきに努力するという風土や国民性が強く、一時期は世界で、「MADE IN JAPAN」といえば高品質の代名詞とされてきました。そのなかでも、長い歴史の中で伝承されてきた伝統技術はさらに最高級のものとされ、ものづくり大国の華として世界中から一目置かれる存在でした。
しかし現在、テクノロジーの爆発的な進歩に伴い、精密に作業を繰り返す機械が生まれ、より安価で手軽にものづくりができるようになりました。大量生産大量消費という時代をむかえ、その荒波に揉まれた伝統技術は衰退の一途を辿っています。
今でも技術や品質、美しさは変わらず、世界に誇れる一級品でありながら、その評価を失いつつある原因はどこにあるのか。いろいろと調べ考えるうちに、その衰退の大きな原因となっている3つの課題が見えてきました。それは私が考えていたよりもはるかに深刻で、日本人として真剣に向き合わなければならないと感じさせられる問題でした。
①長い歴史の中で受け継いできた「カタチ」というステレオタイプが、伝統技術の持つ洗練された魅力に触れる機会を狭めている。(文化面の課題)
②技術の習得や複雑な製作工程に時間を要し、職人が製作以外の販促活動を行うことが難しい。(経済面の課題)
③少子高齢化や低賃金などの理由により、あとを受け継ぐ職人が不足している。(社会面の課題)
私は、これらの課題が拡大すると日本から伝統技術やものづくりに対する誇り、大和魂が消えてしまうのではないかと、次第に不安や焦りを抱くようになりました。
ETALEの目指す場所
同じものづくりという立場から、これらの課題解決になにか貢献することはできないか。そんな想いから、ETALEはデザインと香りを伝統技術に掛け合わせ、この日本のものづくり産業の課題に向き合っています。具体的には、次の3つの「貢献」という軸を掲げて活動しています。
①プロダクト各所に伝統技術を取り入れてデザインし、伝統技術の持つ魅力はそのままに、現代の暮らしに溶け込む新たな「カタチ」を表現する。(日本文化への貢献)
②伝統技術を用いたプロダクトを積極的に発信し、売上と認知を増やすことにより、伝統技術を担う職人へその価値を還元する。(日本経済への貢献)
③伝統技術の魅力をこれからの時代を担う世代へ伝え、その技術と社会的地位を向上し続けることで、後継者をより多く生み出す。(日本社会への貢献)
これら3つの軸は、日本の文化・経済・社会の面それぞれに貢献するだけでなく、一連のサイクルでもあります。このサイクルを何度も何度も回し続けることで、日本の伝統技術やものづくり産業の活性化に貢献することができると考えています。
現在はそのはじめの一歩として、ディフューザーの容器に「江戸硝子」の伝統技術を取り入れています。また、「織物」「染色品」「組紐」「陶磁器」など、さまざまな伝統技術を幅広く展開すべく行動して続けています。
今後、さまざまなプロダクトを通してこのサイクルが波及する範囲を拡げ、美しく繊細でいて無駄のない日本美を受け継いだ、これからの日本を担うブランドとなる。
そしていつの日か、
MADE IN JAPAN(日本でつくられたもの)
の魅力を世界に再認識してもらうだけでなく
JAPAN MADE(これまでの日本がつくってきたもの)
に新たな価値を付加する存在になる
そこがETALEの目指す場所です。
伝統技術を用いたプロダクト一覧
私たちが生まれる遥か昔からある伝統技術
古くから生活の一部として親しまれ
その技術は今でも幅広い分野に息づき
職人の手から手へと
長い歴史やプライドとともに伝承され続けています

江戸硝子
ディフューザーの硝子容器は
天皇陛下から勲章を授与されるなど
様々な功績を持つ老舗硝子工房である
田島硝子に特注しています
数ある江戸硝子の技法の中から
吹いた熱い硝子を冷水の中に入れ急冷することで
強制的に氷を砕いたような網目状の模様を表現する
氷紋硝子と呼ばれる技法を用いています
確かな技術を持つ職人の手で丁寧に仕上げることで
ひとつひとつ模様に若干の違いが生まれ
手のぬくもりと唯一の個性が感じられます